• 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)とは

    <筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)とは> 

    はじめに

    ALSはアルツハイマー病、パーキンソン病に次いで患者数の多い神経変性疾患であり、日本では約9,000人の患者さんがいます。全世界のALSの有病率は、人口10万人あたり4.42人とされています。(Xu et al., 2020) 発症は40代から70代の方が多く、90%の方は家族歴なく発症します。一方、10%の症例は家族性であります。日本ではSOD1変異を持つ家族性ALSの頻度が高く、ALS全体の2-3%となります。

    この病気を発症すると、徐々に身体が動かせなくなり、食事や会話も困難になり、呼吸もできなくなってしまいます。人工呼吸器を装着すれば生命維持が可能ですが、全身の麻痺は進行します。人工呼吸器による延命は平均7年とされています。(Hayashi et al., 2020)

    残念ながら人工呼吸器装着までの期間を数ケ月程度遅らせる薬はあるものの根治療法はありません。障害(変性)が生じるのは運動神経のみであり、患者さんは意識がはっきりしたまま徐々に体が動かせなくなります。また、24時間あらゆる生活介護が必要となるため介護負担が非常に大きいのも特徴です。

    現在、世界中の研究者により根本治療を目指して多くの治療研究がなされています。

    本サイトでは、科学的根拠に基づいた最新のALS治験情報を提供いたします#

    慶應義塾大学医学部メモリーセンター

    伊東大介

    https://www.facebook.com/profile.php?id=100053750162768

    https://scholar.google.co.jp/citations?user=gG_vhz4AAAAJ&hl=ja&oi=ao  
    https://twitter.com/3j06dHE8OsjdGwL  

    協力

    慶應義塾大学医学部神経内科

    西本祥仁

    岡田健佑

    #取り上げる治験は、下記を基準としております。

    1)信頼のおける前臨床研究がある

    2)原則第2相以上

    3)社会的、医学的重要性が高い

    最終更新日

    2022年4月17日

    <ALSの体内で起きていること>

    ALSでは脳から脊髄までの上位運動神経と、脊髄から筋肉までの下位運動神経の両方が変性し、2次的に筋肉がやせ衰えます。ALSの90%以上の例では、TDP-43と呼ばれるたんぱく質が、脳、脊髄の神経細胞に異常蓄積しています。

    一方、家族性のALSで最も多いSOD1変異を持つALSの患者様は、TDP-43の異常蓄積がなく、代わりにSOD1が異常蓄積します。したがって、病気の根源は異なると考えられています。

    治療

    現在本邦で認可されている薬は2つあります、いずれも病気の進行を抑える作用はありますが、その効果は限定的です。残念ながら根本的に本疾患を治せる薬はまだありません。
    リルゾール(リルテック®)
    エダラボン(ラジカット®)

  • Update(2023年2月21日)

    • Relyvrio (AMX0035) フェニル酪酸ナトリウム3gとタウロウルソデオキシコール酸(taurursodiol1gの合剤 

    作用:異常たんぱく質の蓄積による障害を改善する

    過去の治験結果:24週間の投与でALSFRS-R(進行速度)低下率は、2.52点の群間差を認め、生存期間中央値は6.5カ月延長

    副作用:消化器症状

    詳細

    作用:フェニル酪酸ナトリウムとタウロウルソデオキシコール酸は、小胞体ストレス*の軽減にはたらく。タウロウルソデオキシコール酸はミトコンドリア障害も改善

    過去の治験結果:第2相試験では発症18カ月未満のALS患者(137例)を対象に、24週間観察期間でALSFRS-R低下率は実薬群-1.24点/月、偽薬群-1.66点/月と有意に抑制。死亡リスクが44%減少(HR 0.56; 95% CI, 0.34-0.92)。

    生存期間中央値は、実薬投与開始群で25.0カ月、偽薬投与開始群で18.5カ月で、6.5カ月延長。(Paganoni et al., 2020)

    オープンラベル継続投与試験では、初期実薬群は、重症リスク(死亡+気管切開/人工呼吸器使用)を49%、入院リスクも44%低下。(Paganoni et al., 2022)

    副作用:消化管イベントの発生頻度が高く(2%以上)、また、AMX0035の投与中止は、プラセボ群に比べ多い。

    投与法:最初3週間は1日1回投与、その後1日2回投与

    治験の現状:2022年6月カナダ保健省で承認。米国食品医薬品局 (FDA) は、Relyvrioを承認(2022年9月29日)。

    Phase III Trial of AMX0035 for Amyotrophic Lateral Sclerosis Treatment (Phoenix): 上記Phase IIの結果を約600人のALS患者で確認することが目的。

    主要評価項目: Amyotrophic Lateral Sclerosis Functional Rating Scale-Revised (ALSFRS-R)

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05021536

    エントリー終了

    終了予定:2024年

    備考:フェニル酪酸ナトリウムとして尿素サイクル異常症(ブフェニール錠500mg 470.6円/錠)の薬剤として上市されている。

    慢性肝疾患における肝機能の改善薬としてウルソデオキシコール酸(ウルソ®)は一般診療で処方されている。タウロウルソデオキシコール酸はウルソデオキシコール酸のタウリンと抱合(結合)したもの。タウロウルソデオキシコール酸は、TUDCAとしてサプリメントとして販売されている。

    • EPI-589

    作用:抗酸化作用。EPI-589はALS細胞モデルにおいて、エダラボンより高い活性を示した。

    治験の現状:EPI-589の筋萎縮性側索硬化症を対象とした探索的試験 第2相

    実際の登録者数:19名

    治験結果:安全かつ良好な忍容性が確認され

    投与法:EPI-589の1日2回500 mg

    EPIC-ALS 試験(第 II 相、jRCT2061210031)

    登録予定数10名対象

    主要評価項目 治療開始6ヵ月後のALSFRS-R

    投与法:1日3回500 mgの内服投与  エダラボンとの併用不可

    エントリー終了、日本

    終了予定:2023年10月

    作用:オートファジーを活性化し、蓄積した有害なタンパク質のクリアランスを促進する。

    投与:毎週点滴投与 6か月間

    治験の現状:第2/3相

    主要評価項目 ALSFRS-R

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05136885

    エントリー終了

    終了予定:2023年10月

  • 承認済み薬剤(2022年6月15日現在)

    (詳細:医療従事者向け内容、*用語集参照)

    作用:神経の過剰な興奮を抑えることにより、神経細胞保護作用を有する薬剤。

    過去の治験結果:これまでの二重盲検比較試験(n=1477例)の結果から生存期間を2-3か月延長させる効果が示されている。

    副作用:比較的頻度の高いものとして,嘔気,嘔吐,下痢,食欲不振などの消化器症状,眠気,無力感,めまい。

    検査結果では肝機能障害,貧血などが報告されている。

    詳細

    作用:グルタミン酸による興奮毒性を抑え、神経細胞保護作用を有する薬剤。げっ歯類のモデルマウスでは有効性を示したエビデンスは乏しい(Hogg et al., 2018)。

    過去の治験結果:4つの二重盲検比較試験(n=1477例)のメタアナリシスの結果から生存期間(死亡や気管切開までの期間)を2-3か月延長させる。(Miller et al., 2012)

    一方、努力性肺活量(%FVC)が 60% 以下の患者では効果が期待できない。

    投与法:1回1錠、1日2回(朝及び夕食前)、リルゾールとして1日量100mgを経口投与。食前投与の理由:空腹時に比して高脂肪食後は本剤の吸収率が低下するため。

    備考:最も科学的根拠の高い治療法である。日本、米国、欧州で認可されている唯一の薬剤。

    • エダラボン(ラジカット®)点滴静注製剤 Edaravone

    作用:活性酸素除去

    過去の治験結果: 発症2年以内の軽症例では6か月の治療でALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R*: The revised ALS Functional Rating Scale、ALSFRS-R)の低下(進行のスピード)を2.49点抑えた。しかし罹病期間が3年以内の症例では有効性をみとめていない。

    ドイツでの長期間の観察(約1年)では、リルゾール投与下においては、ALSFRS-R低下(症状の進行速度)、生存期間(死亡や気管切開までの期間)を延長する効果はみとめなかった。

    現状:経口薬の第3相試験 

    備考:1年以上の治療で、進行抑制、生存期間を延長する効果は認められないため、欧州では認可されていない。

    2021年12月10日にエダラボン経口懸濁剤(飲み薬)の2週間ごと投与は点滴静注製剤の安全性プロファイルとおおむね一致と報道。米国食品医薬品局(FDA)による RADICAVA ORS®(エダラボン経口懸濁剤)を承認(2022年5月12日)

    詳細

    作用:活性酸素除去。げっ歯類のモデルマウスでは有効性を示したエビデンスはある。(Ito et al., 2008)

    ALS重症度分類*1度又は2度,努力性肺活量が80%以上及び罹病期間が2年以内の対象(実薬68、偽薬66例)において、6クール(6か月)の治療で群間差は、ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R*: The revised ALS Functional Rating Scale、ALSFRS-R)2.49点[0.99,3.98、p値=0.0013]と有意差を認めた。(Writing-Group-Edaravone-ALS-Study-Group, 2017)

    しかし罹病期間が2-3年の症例まで含めた治験(実薬100、偽薬99例)では有意差を認めていない。(Abe et al., 2014)

    ドイツでの多施設共同,傾向スコアマッチ法による長期間コホート研究[実薬(エダラボン+リルゾール群)130例(観察期間中間値12.7か月)、偽薬(エダラボン単独群)133例(11.1 か月)]では、ALSFRS-R低下速度(病気の進行)、生存期間(死亡や気管切開までの期間)いずれもリルゾール治療下での追加効果は示せなかった。(Witzel et al., 2022)

    一方、米国による同様な解析(実薬318例、偽薬318例、両群とも65.4%がリルゾール治療歴あり)では、エダラボンにより6か月の延命効果を認めた。(Mitsubishi Tanabe Pharma America, 2022)

    投与法:1回2袋(エダラボンとして60mg)を,60分かけて1日1回点滴静注を行う。通常、本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとし、これを繰り返す。第1クールは14日間連日投与する(入院が必要)。その後14日間休薬し、第2クール以降は続く14日間のうち10日間投与後14日間休薬を繰り返す。

    副作用:腎障害0.3%以下、肝機能障害(0.24%)

    1年以上の治療で、進行抑制、生存期間を延長する効果は認められないため、欧州では認可されていない。

    2021年12月10日にエダラボン経口懸濁剤(飲み薬)の2週間ごと投与は点滴静注製剤の安全性プロファイルとおおむね一致と報道。2022年3月14日に、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請。

    米国食品医薬品局(FDA)による RADICAVA ORS®(エダラボン経口懸濁剤)のを承認。(2022年5月12日)

    治験の現状:エダラボン経口懸濁剤(MT-1186)のALSを対象とした長期安全性および忍容性を評価するグローバル第3相臨床試験  

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05151471

    リクルート終了 本邦あり

    終了予定: 2024年6月 

    備考:エダラボン飲み薬の”1日1回毎日投与”の有効性を確認する日本を含めたグローバル試験である。点滴から経口薬になることにより侵襲性が下がりかつ連日投与が可能となる。

  • Latest ALS Clinical Trial Information (https://daisukeito.jp) Open

    We provide up-to-date, scientific ALS clinical trial information based on scientific evidence

    ALS is the third most common neurodegenerative disease after Alzheimer’s and Parkinson’s diseases. The worldwide ALS prevalence is 4.42 per 1,00,000 people. (Xu et al., 2020) The onset of the disease is most common in people in their 40s to 70s, and 90% of cases occur without any family history of the disease. However, approximately 10% of these cases are familial ALS.

    Once the disease develops, the patient gradually becomes immobile, has difficulty eating and speaking, and is unable to breathe. A ventilator can sustain life, but paralysis progresses throughout the body. The average life expectancy with a ventilator is 7 years. (Hayashi et al., 2020)

    Unfortunately, there is no curative therapy; however, there are drugs that can delay the time to ventilator use by a few months. Only the motor nerves are affected (degenerated), and patients gradually lose the ability to move their bodies while remaining conscious. The disease is also characterized by a very heavy burden of nursing care, as the patient requires around-the-clock care.

    There are several ongoing studies worldwide to achieve a fundamental cure.

    This website provides the latest information on ALS clinical trials, based on scientific evidence.

    Daisuke Ito M.D. Ph.D. Keio University School of Medicine

  • その他(2022年10月5日)

    • CNM-Au8

    作用:細胞のエネルギー生成反応を促進し、酸化ストレスを除去

    治験の現状:第2相 電気生理学的評価にて進行を抑制、ALSFRS-Rで6点低下抑制。

    詳細

    作用:金ナノクリスタル(径13 nm)の経口懸濁液。表面の触媒作用によりエネルギー生成反応( NAD+ とATPの増加)を促進し、酸化ストレスを除去する。

    治験の現状:第2相、無作為化二重盲検プラセボ対照試験(実薬23、偽薬22人、24週)主要評価項目 (ALSFRS-R)、次評価項目ともに有効性示せず。ただし、長期非盲検延長試験(OLE)の探索的解析では、早期治療より無治療または遅延治療(最初にプラセボに無作為化)と比較して死亡リスクが70%減少(HR 0.291; p=0.015)

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04297683

    投与:経口

  • 本邦での参加者募集中の治験 (2022年4月2日現在)

    • トフェルセンのSOD1-ALS発症前投与治験

    SOD1遺伝子変異を有する発症前の方にトフェルセンの投与を開始することで臨床的症状の発現を遅らせることができるかどうかを検証する臨床第III相ATLAS試験が開始。ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04856982 

    参加者募集中 本邦あり

    重要選択基準:急速進行性型のSOD1遺伝子変異を持っているがまだ症状がない患者

    • 自家骨髄間葉系幹細胞

    筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する自家骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与二重盲検無作為化比較試験  jRCT2013190010

    参加者募集中 本邦あり(札幌医科大学附属病院)

    重要選択基準:ALS重症度分類の重症度1度~3度で、発症から3年以内の患者。

  • 幹細胞治療(2022年8月23日現在)

    • 自家骨髄間葉系幹細胞治療

    作用:骨髄液より採取した自己骨髄間葉系幹細胞を体外で培養・増殖し、患者の静脈内に投与する細胞療法。幹細胞によるニューロンの保護作用、神経炎症の抑制作用が期待される。

    治験の現状:筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する自家骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与二重盲検無作為化比較試験

     jRCT2013190010

    重要選択基準: ALS 重症度分類の1度~3度、発症から3 年以内のALS。

    投与法:骨髄液より採取した自己骨髄間葉系幹細胞を体外で培養・増殖し、患者の静脈内に投与

    参加者募集中 本邦あり(札幌医科大学附属病院)

    終了予定:2024年07月

    • NurOwn® (自家骨髄由来神経栄養因子分泌間葉系間質細胞)

    作用:骨髄液より採取した自己骨髄間葉系幹細胞を体外で培養・増殖し、患者の髄腔内に投与する細胞療法。

    治験の現状:3相試験では、全症例群では主要評価項目で有効性が示せなかった。しかし、サブグループの解析では登録時ALSFRS-Rが27点以上の患者群で統計学的に有効性が認めた。

    詳細

    作用:患者骨髄液より採取した自己骨髄間葉系幹細胞を体外で培養・増殖し、患者の髄腔内に投与する細胞療法。本細胞が神経栄養因子を産生して神経保護作用が期待される。

    投与:隔月髄注 3回

    治験の現状:第3相試験では、全患者の解析では主要評価項目で有効性が示せなかった。(ALSFRS-R変化率が治療前後で1.25点/月以上の改善度を示した割合:NurOwn投与群32.6%、偽薬群27.7%と統計的有意差なし)(Cudkowicz et al., 2022)

    一方、統計学的手法の修正を経て、サブグループの解析では登録時ALSFRS-Rが27-35点の軽症群は、ALSFRS-R低下が有意に低値であることを訂正論文で発表した。(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/mus.27472

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03280056

  • 生物学的製剤

    ペグセタコプラン(EMPAVELI™)Pegcetacoplan

    作用:炎症にかかわる補体の阻害作用。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の成人患者の治療として使用されている。

    治験の現状:第2相 参加者募集中 本邦あり

    詳細

    作用:神経接合部の運動終板における炎症にかかわるC3補体の阻害作用。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の成人患者の治療として使用されている。動物実験では、補体阻害の有効性に関しては結論が得られていない。(Lobsiger et al., 2013; Woodruff et al., 2008)

    治験の現状:Pegcetacoplan(ペグセタコプラン)の有効性と安全性を、成人患者を対象に評価する試験 第2相

    参加者募集中 本邦あり

    重要選択基準:孤発性ALSで発症後16.5ヵ月(72週)以内、肺活量(SVC)が予測値の60%以上ある孤発性ALS

    投与:皮下注射 週2回

    副作用:肺炎連鎖球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌B型 (ワクチン接種必要)

    備考:C5補体の阻害作用のあるラブリズマブ (ユルトミリス®)は、第III相試験の中間解析で有効性示せず早期中止となった。

    • 組換えヒト HGF タンパク質

    作用:HGFの神経栄養因子作用。げっ歯類モデルマウスで進行抑制(Ishigaki et al., 2007)

    治験の現状: NP022(髄腔内カテーテルと皮下埋め込みポート)を用いてHGFタンパク質(KP-100IT)を6か月脊髄腔内投与することによる有効性および安全性を検証するプラセボを対照とした二重盲検期および非盲検継続投与期からなる第II相試験(医師主導治験)発症30か月以内でALS重症度1あるいは, %FVCが70%以上のALS患者を対象

    UMIN 試験 ID:UMIN000022050

    エントリー終了 最終症例の最終観察日が終了投与法:脊髄腔内投与

    ・AT-1501 (anti-CD40L)(Tegoprubar)

    作用:神経炎症を抑制

    治験の現状:第2a相で、ALS臨床試験データの対照群と比較して病状進行が抑制。

    詳細

    作用:免疫細胞の表面抗原、CD40リガンド(CD40L)とCD40受容体の相互作用を阻害することで神経炎症を抑制。

    治験の現状:第2a相終了

    Tegoprubart の忍容性は良好、重篤な有害事はなし。

    ALS臨床試験データセットであるALS PRO-ACTデータベース*の対照群と比較してALSFRS低下が抑制。

    投与:隔週静脈内投与

    ・ラトジネマブAL001、GSK4527223

    ソルチリンは細胞内輸送のソーティング受容体である。 神経栄養因子、シグナル伝達、リソソーム分解に関与している。特に前頭側頭型認知症の主な原因であるプログラニュ-リンのエンドサイトーシスと分解を調節する。本疾患では、プログラニュリンレベルが50 ~ 70%低下している。本薬剤でソルチリンを抑制することは、プログラニュリンが上昇する。 

    治験の現状:C9ORF72 変異による ALS のフェーズ 2

    主要評価項目は安全性、忍容性、薬物動態および薬力学であり、血漿および CSF のプログラニュリン濃度

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04436510

    エントリー終了

    ・低用量アルデスロイキン

    作用: 低用量IL2は、末梢性制御性T細胞(Treg)を増強し、炎症を改善する.

    治験の現状:第II相試験、エントリー終了

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT02059759

    選択基準: ALS罹病期間24ヶ月、VC70%、riluzoleによる治療歴のない患者。

    投与法:28日ごとに5日間を1サイクルとして皮下投与

    過去の治験結果:主要評価項目は、無作為化後21ヶ月(640日)時点での死亡までの時間(生存率)。全患者群での解析は、生存率を19%改善する傾向があったが、統計学的な有意差には至らなかった。一方、CSFリン酸化ニューロフィラメント重鎖(重症度のバイオマーカー)の値が低い群においては、アルデスロイキンは死亡リスクを43%減少させ、ALSFRS-Rスコアにおいても疾患の進行を遅らせた.

  • iPS細胞関連創薬(2022年4月24日現在)

    • ロピニロール(レキップ®) Ropinirole

    作用:疾患iPS細胞の研究から見出された薬剤。本来パーキンソン病の薬として広く投与されている。

    過去の治験結果:第1/2相 ALSFRS-R 低下があったが、統計学的有意には至っていない。

    詳細

    作用:疾患iPS細胞の研究から見出された薬剤。本来パーキンソン病の薬として広く投与されているドパミンアゴニスト。TDP-43、FUSの異常たんぱく質の蓄積を抑制しミトコンドリア障害を改善。一方、SOD1変異を有するALSには無効。

    過去の治験結果:第1/2相 実薬13名、偽薬7 名

    ALSFRS-R において、二重盲検期(6ヶ月)ロピニロール投与群では 5.9±4.1の低下、偽薬投与群では 15.6±8.8低下ではあったが、統計学的には有意でない。(Morimoto et al., 2022)

    投与:経口投与

    副作用:消化器症状、眠気、下腿浮腫

    • ボスチニブ(ボシュリフ®)Bosutinib

    作用:疾患iPS細胞の研究から見出された薬剤。本来、慢性骨髄性白血病の治療薬

    治験結果:第1相12 週間投与で9例中5例が、ALSFRS-Rの低下が停止。

    現状:第2相試験開始 募集はなし

    詳細

    作用:オートファジーを介して異常蓄積蛋白の除去を誘導。疾患iPS細胞の研究から見出された薬剤。慢性骨髄性白血病の治療薬。SOD1変異を有するALSにも有効。

    過去の治験結果:第1相 ALS患者さん9名中3名が有害事象(下痢、肝機能障害)で中断。

    12 週間投与で9例中5例で、ALSFRS-Rスコアの低下(進行)が停止。ALSFRS-Rの低下が抑制された患者は、ベースラインの血液中ニューロフィラメントL(神経障害のマーカー)低値であった。(Keiko Imamura et al., 2022)

    現状:第2相試験開始 多施設共同非盲検試験 外部対照(過去のALSの臨床試験データやJaCALS*のデータ)と比較(目標症例数25)

    募集なし

    投与:経口投与

    副作用:下痢、肝機能障害など

  • 核酸治療薬(2022年9月24日現在)

    • トフェルセン、Tofersen

    作用:スーパーオキシドジスムターゼ 1(SOD1)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)によりSOD1の発現を抑制する。

    対象はSOD1変異*を持った家族性ALS 

    過去の治験結果:主要評価項目である6ヵ月後のALSFRS-R(症状の進行速度)に対して有効性は見いだせなかった。(p=0.97)

    今後延長試験で非急速進行性型における進行速度の緩徐化等の検証を行う。

    詳細

    過去の治験結果:第三相試験:主要解析群(急速進行性群)(偽薬21例、実薬 n=39例)のALSFRS-Rでのトータルスコアの28週(二重盲検期)でのベースラインからの変化量という主要有効性評価項目で有用性を認めなかった(群間差1.2; p=0.97)。神経系の重篤な有害事象(脊髄炎、髄膜炎、腰椎椎間板症、頭蓋内圧亢進および乳頭浮腫)が約7%に発生した。偽薬投与群は発生0。(Miller et al., 2022)

    一方、副次的および探索的評価項目(運動機能、呼吸機能、生活の質)でトフェルセンに有利な傾向が観察された。トフェルセン投与により、神経細胞障害の示す髄液NLFの有意な低下をしめした。[急速進行性群で実薬群60%減少、偽薬群20%上昇]

    オープンラベル継続投与試験(12か月後)では、初期偽薬群と比較して初期実薬群は、ALSFRを3.5点(95% [CI]: 0.4, 6.7)、肺活量9.2%(95% CI: 1.7, 16.6)高かった

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03070119

    投与法:月1回髄注

    副作用:腰椎穿刺に関連した有害事象(頭痛、腰痛など)に加え、脊髄炎を含む重篤な神経学的事象がトフェルセン投与群にみられた。

    治験の現状:2022年7月26日FDAはtofersenの新薬承認申請の審査に合意した。この申請は、第3相試験において、実薬群では、神経フィラメント軽鎖NfL値(神経細胞損傷のマーカー)の低下が大きかったことに基づいたものである。審査は 1月25日までに決定する予定。

    SOD1遺伝子変異を有する発症前の方にトフェルセンの投与を開始することで臨床的症状の発現を遅らせることができるかどうかを検証する臨床第III相ATLAS試験が開始。

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04856982 

    参加者募集中 本邦あり

    終了予定: 2027年8月備考:急速進行性型のSOD1遺伝子変異を持っているがまだ症状のない家族性ALS患者が対象。

    • アデノ随伴ウイルスAdeno-associated virus rh10 containing an anti-SOD1 microRNA (AAV-miR-SOD1)

    作用:SOD1に対するmicroRNA組み込みこんだアデノ随伴ウイルスを、脳脊髄に感染させSOD1の発現を抑制する。

    治験結果:1例報告 SOD1変異A5V#をもつ急速進行性型症例に投与された。(Mueller et al., 2020)

    投与後、AAVに関連する髄膜炎に対してステロイド治療を要した。

    治療開始15.6カ月、発症後20カ月で呼吸不全にて死亡。

    投与法:髄注1回

    病理学的には、脊髄SOD1蛋白の90%低下が確認できたが、生命予後の改善には至らなかった。

    備考:非急速進行性型一例((D91A–D91A変異)への投与を行っている。

    作用:日本では2番目に多い家族性ALSの遺伝子FUSに対すASOでその発現を抑制する

    治験結果:1例報告 FUS変異 P525L#患者(25歳)

    治療開始時既にすでに呼吸不全がありNTTV*使用。治療開始後ALSFRSの低下は緩徐にみられたが、呼吸不全、嚥下障害が進行、治療開始後約1年、発症後18カ月で合併症により死亡。(Korobeynikov et al., 2022) 

    (#FUS変異 P525Lは、呼吸不全まで発症後平均13.8カ月である。(Zhou et al., 2020))

    投与法:髄注(10カ月で12回投与)

    備考:病理学的には、脊髄でのFUS蛋白の異常蓄積は劇的に減少していたが、臨床症状の改善は認めていない。

    現状:第3相試験 ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04768972

    参加者募集中 本邦情報なし

    終了予定:2024年3月

    • BIIB078, Afinersen

    作用:C9orf72 変異*を持つALSに対してASOでその発現を抑制する

    治験結果:1例報告 治療開始後、バイオマーカーであるC9orf72 変異から発現する異常蛋白質の脳脊髄液で低下を確認したが、神経障害を示すNLFはむしろ増加。ALSFRS-R(症状の進行)は横ばい。

    投与法:髄注(17カ月で8回投与)

    治験結果:Biogen 第1相試験BIIB078では、安全性は確認されたが、臨床的有用性(ALSFRS-R, %VC等)は認めず、開発中止となった。

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03626012 

    • WVE-004

    作用:C9orf72 変異*を持つALSに対してASOでその発現を抑制する。上記と同様な薬理作用

    現状:Wave Life Sciences 第1相試験 (NCT04931862) 

    治験結果:バイオマーカーであるC9orf72 変異から発現する異常蛋白質(polyGP)の低下を脳脊髄液で確認。

    ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04931862 

    参加者募集中 本邦情報なし

    終了予定:2023年2月